JASPAニュース
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長との座談会
日時:2024年2月28日(水)10:30~12:30
会場:全国ソフトウェア協同組合連合会 会議室
出席者:
【経済産業省】
内田 了司(商務情報政策局 情報技術利用促進課長)
【全国ソフトウェア協同組合連合会】
安延 申(会長)
林 知之(副会長、東京システムハウス株式会社 代表取締役)
太田 貴之(副会長、株式会社エー・アール・シー 代表取締役)
2024年の経済産業省の施策と今後の展望 / ビジョン
(安延) 内田課長はまさに情報政策のコアを担っておられる方ですが、まず、2024年度の経済産業省の重点政策や、課長が重要と考えられていることを簡単にご紹介いただけますか。
(内田) 広くデジタル政策全般としては、社会のデジタル化が加速度的に進み、必要とされる計算基盤の量が急激に増えています。そこに昨年から大きな話題となった生成AIのような新しいテクノロジーが登場しています。半導体はAI開発や活用の基盤でもあり、計算能力の質の高度化も求められています。地政学上も重視されるようになったこうした計算基盤へ最大限の政策資源の投入が続いています。次世代半導体のラピダスを始め日本の半導体政策や支援策への期待から、日本に対する投資意欲が高まっています。この流れは継続する必要があります。加えて、ドローンや自動運転等の社会実装に向けて、デジタル時代の社会インフラとして共通規格に準拠するデジタルライフラインの全国的な整備を進めています。最初の東京オリンピックを契機に高速道路網など社会インフラが急速に整備されたように、今まさにそのデジタル版でドローンや自動運転のような次世代の社会インフラが整備されようとしています。また、そうした産業を支えるデジタル人材の育成も、政府全体で高い目標を掲げて関係省庁が連携して、また民間の新規参入も促しながら、官民で人材育成に取り組んでいます。
こうしたデジタル基盤を活用してデジタル経済のパイを大きくしていく上で、皆さんの業界がどのくらい活躍するのか、
デジタル基盤の上のレイヤーでどういうアプリケーションが走るか、これこそ皆さんの業界とダイレクトにリンクする問題でもあります。
ソフトウェア産業や地域のITベンダー、IT企業との関係では二つのトピックがあります。一つは生成AIです。1年ほど前にChatGPTが出てきて自然言語でAIが操れる時代に入り、既にプログラマーがコードを書かせて生産性が何割も上がっているといわれています。そうなるとこれまでのソフトウェアやシステム開発のあり方や大手の商慣行は変わらざるを得ません。そのときに全国各地の中規模、小規模のソフトウェア開発企業は、次はどこに仕事を求めていくのかを今から考えておく必要があると思います。われわれも一緒に考えたいと思いますが、特に遅れが目立つ地域企業のDXをもう一回見つめ直す必要があると思います。
中小企業庁の統計では、地域企業でデータを活用して新しい業務を始めるなど、本気でDXをやっているところは4%程度となっています。ちょっとしたデジタル化で生産性が上がることは地域企業の方にはまだまだ知られていません。特に人材や資金に乏しい中小企業にDXと言っても難しいと思うので、これからは地銀などの地域の伴走役にDX支援に取り組んでもらうべきという議論があります。地域のIT関係者がこうした取組に参加してもらうことを期待しています。
(注)3/27公表DX支援ガイダンス(以下サイト参照)
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dxshienguidance.pdf
もう一つは、人材不足です。今はどの業界でも人材不足が顕在化していますが、そもそも生産年齢人口が構造的に右肩下がりの状況は2000年以前から始まっていましたし、高齢者や女性の社会・労働参加も含めて働ける人は働いているという状況で、労働量を増やすことは困難です。そうなると、今既に社会で働いている人たちの労働の質を高め、社会全体で生産性を上げていく必要があります。
リスキリングでは、生成AIも含めて新しい技術への理解を深めることが大事ですが、社会人一般にまだまだデジタルのリテラシーが足りないということで、ITパスポート試験の受験が社会人レベルで増えています。普通の事業会社、特に金融・保険業を中心に、デジタルのリテラシーを身に付けないと、社内で飛び交うデジタル・ビジネス用語についていけないという意識は高まっていると思います。生成AIも含めて新しい技術が登場する時代です。大学を卒業したら学ぶのは終わりではなく、全ての社会人にとって学び続けることが必須というのが当たり前の時代になっています。実際、大手から中小まで常に人が採りにくい状態が続き、ITエンジニアの中途採用も簡単ではなく、従来よりも高額で、見つかったとしてもかなり高値が付くようになっています。中途採用の玉が減っているということもあるでしょうが、既に大手では、DXを進めていく上では社内業務に精通したデジタル人材を育成した方が良いという人材育成の内製化へと動き始めています。
こうした変化の先で、地域の中小・中堅のIT企業は今後どうするのか。この瞬間はまだコロナで止まっていた仕事の余波、人手が足りないこともあって、需要超過の状態で景気はむしろ非常に良いのでしょうが、これまでの業界の歴史的変遷を振り返れば仕事の内容が変わらないと考えることはリスクです。だからこそ、リスキリングは大手企業だけでなくソフトウェアやITシステムに関わる全ての人々の課題です。今は過渡期的にCOBOLを使える人が重宝されているとよく聞きますが、それは10年以上続くのでしょうか。
新しい技術によるビジネスの変化は、明日急に起こるのではなく徐々に技術が浸透していく中でじわじわと起こってくるので、今は足下のビジネスをしつつ、10年後に企業としてどうあるのかということを考えるタイミングだと思います。
産業構造や企業構造への影響
副会長、東京システムハウス株式会社 代表取締役
(林) おっしゃるとおりコロナで止まっていたこともあり、2018年のDXレポートにおける「2025年の崖」のインパクトもあって、今は猫も杓子もDXで、当面は本当に仕事が豊富だし、引き合いも多い反面、とにかく人が足りないというのが現状です。
問題なのはやはり人手不足で、AI(DX含め)は一つの産業革命のようなものですから、生産性が上がっていく中で、なくなる仕事も出てきます。スキルアップして上にいける人もいるけれどもそうでない人もいて、質の高い仕事、レベルの高い仕事は日本人中心になるかもしれませんが、ブルーカラーの仕事も必ずあって、そこを日本人で補うのか外国人を入れるのか。当面はオフショアを使うなどして人手を確保しなければいけないのだろうと思っていますが、10年後、20年後を見て今何をしておくべきかはまだ考えているところです。
弊社はキーパンチから始まった会社なのですが、入力したら次にデータ処理があるということでシステム開発に移っていき、金融系を中心に大型汎用機の技術者(SE・PG)を派遣する形で事業が拡大していきました。バブルの時代には社員80人の会社が僅か4年で300人を超えていましたが、バブルがはじけて半分以下になりました。そのときに、創業者である高橋が、もう単純な人出しの下請け仕事はやめよう、創業の理念である自分たちの商品やサービスで直接お客さまやマーケットと対峙しようと決意して、1992年以降、ソフトウェア開発を始めました。最初に手がけたのがゴルフ場の総合運営システムで、今、全国の200を超えるコースに入っています。銀行・保険などの金融関係もベースとしてずっと続いていて、今も絶好調です。それから、私が1995年から担当したのが、アメリカの会社が作ったオープン系のCOBOLを輸入してそのプロダクツを販売するというビジネスと、日立、富士通、日本電機、IBMの自動変換ツールなどを作ってクライアントサーバーに持っていくレガシーマイグレーションサービスで、2000年問題が追い風にもなって、144社の代理店になって成長してきました。
その後、プロダクツの輸入販売はなくなり、マイグレーションサービスはクラウドに移行して、COBOLソースコードのままJAVAの環境を生成するCOBOL 4Jのようなものも発売するなど、渋くニッチなところですけれども、非常に仕事が多い状態です。内田課長はCOBOLが10年後も続くかとおっしゃいましたが、COBOLはできてもう60年で、60年続いたものがなくなるものではないと思っています。それが事業の一つの柱になっていますし、あとは食品表示法ができた20年近く前からは食品業界の成分管理システムの開発を始めて、今はメジャーどころではヤクルトや石屋製菓、エースコック、シャトレーゼなどでご利用いただいています。
KDDI総合研究所サポートも長年していて、研究所のいろいろな技術をもっと世に出して社会貢献もしたいしビジネスにもつなげたい、アプリケーションの世界はノーコードのAIも出てどんどんシュリンクしていきますが、IoTの世界は自動運転などを筆頭に今後どんどん広がるということで、2001年にKT-NETという任意団体をつくりました。ただ、やはりハード絡みの分野でわれわれはあまり経験のないところですし、ハードをやろうと思うとまずは投資が必要なので、まだそんなに大きなビジネスはできていないのですが、方向性は良いということで60社ほどに入ってもらって活発にやっています。
あと、ここ3~4年伸びてきているのがRPAで、当社は端末側ではなくサーバー側で、イギリスのBlue Prismの製品を販売しており、金融系にはだいぶ導入が進んでいます。
やはりキーワードは人手不足と、大きなところではバブル崩壊による生産性や付加価値の向上で、今はRPAという表現はしないようにしているのですが、自動化のところが動いている状況で、それによりバブル前には300人で19億円だった売上が今は200人で38億円と一人当たりの売上が3倍ほどになっています。
(太田) 弊社は1980年創業で、データエントリーから始め、現在はITインフラの設計から構築、運用保守が8割くらい、ソフトウェア開発が2割くらいになっています。取引先は大手Sierやメーカー様で、受託業務が中心となっており、林さんの会社のように自社製品やサービスの展開もできるように頑張っているところです。
うちクラスの会社だと、経験者を中途採用しても結局辞めていってしまうということで、弊社ではずっと新卒か異業種からIT未経験者を採って育てるようにしていて、それにより育成のノウハウがたまってきたものですから、少しずつではありますが教育事業という形で自治体とのお付き合いなど、広がりを見せてきています。現在、売上は社員240人で28億円、1人当たりの売上は高まってきているかなというところです。
やはりコロナのインパクトはとても大きくて、今起きている変化にも関わってくるところですが、テレワークをやれる環境はそろっていながらなかなか動かなかったのがコロナによって一気に進んで、ルールは外部環境によって変えられるということをすごく感じた4年でした。コロナでなくなる仕事もあれば生まれる仕事もあり、いい意味でも悪い意味でも働き方の変化があって、現在に至っているというところかと思います。
人の話も少ししますと、人はすごく採りにくいです。社員一人を採用する単価も今は倍、あるいはそれ以上になっていますし、逆に流出の方も対応が大変で、せっかく採用した新人が何年か育てると大手に行ってしまうということで、日々疑問も感じながら経営しています。
(内田) 今の人材流動については、私も人材育成に関わっていて思うところが多々あります。転職のミスマッチもよく聞くところです。
やはり長い目で見て、どちらかというと労働者目線で、大手でも中小でも自分のスキルと仕事、賃金が適切にマッチするという方向に向かわないと、本当の意味での人の最適配置は実現しないと思います。
デジタルスキル標準を作った背景にはそういうところもあって、スキルアップを通じて自分が就きたい仕事に就けるようにするという未来を実現するためには、あるいは組織の中で人材育成をする場合でも、個人が持っているスキル情報がどこかに蓄積され、それが継続的にアップデート、さらに、求職情報と適切にマッチングされ、適正な年収水準も見える化されるべきだろうと思いますし、それがスキルアップのモチベーションでもあり、適材適所の仕事に就くということの究極的なゴールなのではないでしょうか。採用する企業側はその人が本当に求めるスキルを持っているのか、働く側は自分のスキルに合った面白い仕事ができるのか、ふたを開けてみないと分からないという状況は、解消しなければいけません。
副会長、株式会社エー・アール・シー 代表取締役
生成AI―まずは使ってみて、使い続ける
(内田)ところで、お二人の会社の発展の歴史を伺うと、会社が発展していく過程で当然技術の変化があり、徐々に新しい技術を取り入れていって常に新しいビジネスを立ち上げてきている。その過程でエンジニアがスキルアップしたり、スキルを持っている人を外から採ってきたりして、過去50年ほど最先端の技術に対応しています。そういう経験をもってすれば、今の生成AIへの対応も自然とできていくのでしょうか。
(林)われわれはAIそのものを作る立場ではないので、それをどう活用して、それぞれの仕事の中にどう組み込んでいくか。プログラミングもそうですし、例えばゴルフだとダイナミックプライシングでいかに適切な価格で提示するかなど、いろいろな場面でそれを利用するというのがわれわれのポジションで、ユーザーはそれを知らないうちに使っている。そんな時代になるのではないかと社内では話しています。
もう一つ、1、2年ほど前から取り組んでいるのがデータでカスタマーデータプラットフォームの構築とその後それをどう活用するかで、そこには必ずAIが絡んできます。
商務情報政策局 情報技術利用促進課長
(安延) 私はメディアの責任はすごく重いと思っていて、例えば生成AIなどと言うと何かすごく新しい技術のような気がするのですが、本質は昔から言われていたAIであって、その基本技術、コア技術は、経済産業省が力を入れておられる半導体とネットワークの高速化とセットだと思っているのですが、要は世界中が過去1000年間蓄積してきたような事例と知識を全部瞬時に見て、コンピュータ上で試行錯誤を繰り返させて、この解が一番良さそうだというものを導き出してくる。ただ、どんどん新しい事例が積み重なっていくので、出てくるアウトプットもその時々で変わってくるという、まさに人間の頭がやっているのと同じことをコンピュータがやるだけなのです。ただ、そのスピードが著しく速くなって、人間の脳に近づき、分野によっては超えてきているというのが現状ではないかと思っています。
ChatGPTやAIも極論すると超賢くて大量のデータを処理でき、かつ、その結果が時々刻々と改善されていくということです。例えば、業務処理プロセスをシステム設計に落として、概要設計をして・・といった上流工程は、「ユーザーが自分で出来るじゃないか」となって大きな影響を受けるかも知れませんが、私の個人的な意見ですが、JASPAのプレーイングフィールドは、AIの進歩があっても案外市場変化は少ないのではないかと思っています。例えば、お客様のシステムをモニターして異常があると直ちに対応してリカバーするといった業務は、大手元受けが高い給料を払って自社でやっている例は少ないと思います。大体下りてきて我々くらいの規模の会社がやっているのですが、日本の企業や公的団体は責任者は誰だと叫ぶのが好きなので、「AIがやっています。以上、終わり」では済まされない。よって、その仕事は案外なくならないのではないか?逆に今は高度だと思われている、例えば人事評価などたくさんの人がすごく労力を使ってやっているような仕事は、生成型のAIが進化すれば、あっという間に置き換わっていくのではないかと思っています。要するに、一番置き換わるのは「システムの仕事」じゃなくて「ヒトの仕事」ではないでしょうか。
(太田) それで言うと、僕は生成AIというのは1995年以来、要はWindows95とインターネット以来、もしくはそれ以上のインパクトに十分なり得るパワーを秘めているという話をしていて、何が変わるかというと、頭の使い方です。仕事でも、過程はAIがやってくれるからいいのだけど、ここというところでわれわれの出番がある。生成AIも、学習のさせ方でいくらでも答えは変わってくるわけで、そこでの頭の使い方が変わってきますし、林さんも言っていましたが、われわれIT業の根幹を成すデータをどう拾い、どう分析するかというところの技術、ここでの頭の使い方が今後求められると思っています。
(内田) 生成AIは、安延さんがおっしゃったとおり、膨大なデータを学習したモデルで、問いに対して前後の文脈から最適な回答を選ぶもので、それは思考というよりも学習の結果です。一方で、太田さんが言われた1995年以来、あるいはそれ以上のインパクトがあるというのは私もそのとおりだと思っていて、生成AI自体が日々進化しています。生成AIの利用に関して本当の意味でアドバンテージを持っている人はまだ少なく、ある意味スタートは横一線で、むしろこれから情報をキャッチアップして使い続けているかどうかで、半年後、1年後には使っていない人とは相当大きな差が出てくるものと思います。使い続けることで生成AIはこういうものだなという自分なりの評価ができてくると思うので、今この瞬間に生成AIはこういうものだと断定する必要はないと思います。むしろ便利なツールが出てきたのだからまずは使ってみて、そして使い続けることが大事だと思っています。
政府全体では、昨年5月にAI戦略会議が東大松尾先生を座長に立ち上がり、早速、課題・論点を整理して、各省庁が法解釈の明確化やガイドライン作成に取りかかりました。当課でも生成AI利活用人材のスキルについて整理を行いました。ハードの面でも国産LLMの開発を国も支援していて、これから汎用型と特化型で様々な特徴をもつLLMが使えるようになり、生成AIの社会実装に向けた選択肢は広がると思います。昨年来、多くの会社が生成AIを導入していますが、社内業務効率化に使ってはいるけれども、新しい製品やサービス開発にまで繋がった事例はまだ多くありません。政府も利活用に向けた環境整備に取り組んでいるので、生成AIの登場をきっかけにDXが加速することを期待しています。
(注)LLM=Large Language Mode大量のデータとディープラーニング(深層学習)によって構築された言語モデルのこと。AIが自然言語を理解し、処理していくために必要であり、前提となる。Google社が発表したBERTやChatGPTで知られるOpen AI社のGPT等が著名である。
(安延) でも、こういう言い方は申し訳ないですが、JASPAの会員企業は端的に言えばそんなことになど関心はないわけですよ。ある日突然AIの世界が出現してきて、例えば司法試験の問題を解かせると、多分あと5年たったらAIは人間のどんな優秀な受験者よりも良い点数を取るようになるでしょうが、われわれのような法律の素人からすると、既得権者が文句を言ってそれを止めるなよと、言いたいわけです。例えば、いま、非常に難関とされる司法試験というのは法律の条文と過去の膨大な判例の中から最適なものを選んできて回答を出している訳で、それをひたすら何年も勉強した人が司法試験に通って弁護士や判事、検事になるという仕組みなわけです。しかし、こうした作業は、実はAIが一番得意なところでもあります。このような分野はほかに山ほどあります。要するに、世界はもう変わりつつあって、こういう変化に如何についていき、リードするかが非常に重要な時に、変なノイズを入れて、ただ足を引っ張るというのは止めてほしいという話で、司法制度を例に挙げましたが、他の分野でも似たような話は沢山あると思います。このあたりは、「純粋デジタル」の話ではなくて、アナログの制度を国はどうしていくつもりなのか・・と密接にかかわってきます。JASPAに参加しているような中堅、中小以下のソフト会社などからすると、このあたり政府が何を考えているか見えないよなというところはあります。
あと、林さん、太田さんもおっしゃったようにもう一つよく分からないのはデータの取り扱いです。いまのAI、例えばChatGPTがどんなデータを食っているのか分かりません。他方、文化庁や一部の著作権保有者が言っている著作権のあるデータをAIが勝手に使うことは一切許さないというような話もあります。しかし実際にそのような保護が出来るものでしょうか?またすべきだとも思いません。全体がアナログの経済活動を前提に出来上がっている既存の制度や業務などに影響が出てきたときに政府はどうするのかという、すごく基本的なところに関する考え方があまり示されないままに走っているなという感じはあります。
(内田) 政府が法解釈やガイドラインに取り組んでいるのは、既存制度によって生成AIのような革新的な技術の活用が妨げられないように、更にはそこから生じうるリスクに対応するという観点で取り組んでいるものです。これまでも、一昔前の高性能コンピュータの能力をもつ端末が今日ではスマホとして個人の手に行き渡り、それによって仕事や業務のやり方が大きく変わりましたが、人々は自然とそれに対応してきています。私も太田さんのおっしゃるとおり1995年以上のインパクトがあると思っています。それだけに生成AIを学ぶ使う人と使わない人で差がうまれることがあり得ます。生成AIの普及や進歩によって仕事の選択肢が増える、個人であれば一段ステージを上げた仕事のやり方ができるでしょうし、エンジニアであればコードは丸ごと書かせてそのチェックにむしろ注力するように、機械に任せられるところは任せて、人間はより自身の成長のための時間の使い方が大切になってくるのではないか、という話しを生成AIの活用に先行する人達から聞いています。
いずれにしても、特に経営者レベルで考えるべきことは、もう使うことは前提にして、使えば必ず効率化されて、これまでの業務が代替されるでしょうから、そこに関わっている人たちに何をしてもらうかということです。皆さんの業界ではこれまでお客さんの自動化・効率化をお手伝いしてきただけでなく、自社でも自動化・効率化を図ってこられたと思うので、今回についても自然に対応が進むのではないかと思いますが、やはり目に見える変化はこれまでよりも大きいという意味で、1995年以上のインパクトがあるというのは、その通りだと思いますね。
地域におけるデジタル人材の確保とITの地産地消
(林) そうですね。話を戻すようですけれども、転職サービスは行き過ぎですよね。
(安延) 確かに、現場で必死になって一生懸命ものを作っている人が1000万円を超えるのがすごく大変なときに、人の紹介といってAとBをつなぐだけ、あるいは紹介するだけのエージェントがみんな年収2000万円とか2500万円というのはおかしいですよね。
(内田) 日本ではITエンジニアの処遇が良くないと言われているところ、今日これだけ人材不足が社会問題として言われているのだから、エンジニアにちゃんとお金が行っているなら良いのですが、情報を握っている側だけが儲けているのだとしたら、それは違うよなという気はしますね。
(林) そういうやり過ぎなところには少し規制をかけるようなことと、われわれの方もスキル標準なども出して、こういう仕事だったら幾らですよというようなことを発信する努力も必要だと思います。
(内田) 採用数が多い大手の採用慣行が変わること、特にデジタル人材についてはスキル標準もあるのですから、スキルベースで採用し、スキルに応じた職能給がある、スキルベースで学びながらスキルアップしていく、人材の確保や育成はそうした方向に向かうべきだと思います。そのためには個々人のスキル情報が情報処理技術者試験の合格情報も含めてしっかりと蓄積され、必要な時にそれを活用できるようなスキル情報基盤が必要です。IPAともそうした議論を始めています。
IPAは半世紀に渡って情報処理技術者試験を実施した膨大な受験者の情報がありますが、それが十分活用されていません。
いま、デジタル人材の不足が社会課題となっています。デジタル技術の進化のスピードに着いていくためにも、個人レベルでも組織レベルでもスキルベースでの人材育成が定着するようなエコシステムの実現に取り組んで、継続的な学びの文化を醸成していきたいと思っています。
(安延) 今や組合であることのメリットが少なくなっている中で、数少ない、残っているはずのメリットが、単独企業では応募できないようなスキル向上のための補助金事業にJASPAベースで応募できることです。ところが、わざわざ使いにくい制度にしているのではないかと思うところがあるのです。リスキリングのための教育プログラムに数日、あるいは1週間フルに参加しなければ駄目だと言われたら現場で働いている人間の稼働が減ります。となると、そもそも売上を減らした上に研修費用の2分の1は会社負担になってしまいます。それなら同じ予算を使うのであれば、対象人数は半分でいいので補助率を100%にしてもらえないかという話があります。また、やりたいという会社がいるのだけど最低人数に届かなくて、仕方がないから太田さんなどが苦労して自社から人を出すという努力をしている本末転倒のようなケースもままあって、そういうこまごましたところでの要望はいっぱいあります。
あと、公共調達はAIの時代に結構重要だと思っているのですが、全国一律の調達制度というか資格というか、枠組みがもうここ40年変わっていなくて、私が経済産業省の課長だった頃から公共調達の6~8割がトップ4社で占められていて、それは今も変わっていません。自分の力不足を棚に上げてしまうのですが、過去の納入実績を過度に重視したり、システム費用の支払いが完成し、検収を終えるまで支払われず、1年間は自分で資金繰りして下さいという仕組みです。こうなると、その間の費用を負担できる会社しか応募できないわけで、JASPAの会員のような中堅企業、中小企業は最初から参入は無理です。大手と同じ実績、同じ費用負担能力、同じ資金調達能力を求められれば、太刀打ちできるわけがないですよね。地方は特に応募すらできない状態で、公共事業でも土木や建築は支払いを年4回に変えていると承知していますが、今や最も遅れているのがデジタル業界です。
(内田)例えば林さんのところは、もう下請けはやらない、自分たちでビジネスを開拓していくということで、お客さんのデジタル化やDXなどのニーズを聞きながらシステムを作っていったということですが、そういうことは地方の企業でもできるわけですよね。
(太田) 地域企業のDXが進んでいないという話かと思いますが、私は地域の一番の大企業はそこの自治体だと思っていて、自治体のDXが進み、自治体の仕事に地域の企業が入っていけるようなスキームなどができてくると、意外とITの地産地消が進んでいくような感覚は、幾つか自治体を回っている中で感じます。
(林) あと、われわれ業界としては、オフショアは前からやっていますが、やはり外国人も採用していかないと人が足りない。その意味ではビザ、資格の問題がありますよね。
(内田) 外国人ニーズはどのくらいあるのですか。
(林) うちはエージェントを使ってインド人を直接向こうの大学から新卒で採ったり、JASPAにインド人の社長さんがいて、そこを使うことによってよりいいものをより安くという形で動こうとしていますし、4月には中国人が2人入ります。
(内田) 日本でも全国の大学が社会のニーズに応えたいということで情報やデータサイエンスに注目していて、文部科学省も昨年、過去何十年間も変わらなかった情報学部の定員を3割くらい増やしています。例えばJASPAとそういう地域の大学で個別に連係して、もう少し日本人をリクルートするというやり方もあるのですかね。
(安延) JASPAの下部組織の会員企業に聞くと、高専が採れれば御の字で、そもそも大卒なんか採れませんと言います。役所として悩ましいのは、教える先生がいないという話もよく聞きますよね。
(内田) そうなのです。だから、特に地方の私大などで、コンピュータサイエンスを教えたいのだけれども先生がいないというところのお手伝いを地方の会員企業にもご協力いただき、それをきっかけに経済界と大学のパイプをつないでいくことが期待されます。
(太田) そこでシニアの人たちに活躍してもらえれば、われわれとしてもいいですよね。
(内田) いずれにしても大学は本当に必要な分野の先生が足りないのですが、それ以上に実践的な経験の機会を用意することができていなくて、大学側はむしろその意味で企業との接点づくりをしたいと考えているのだと思います。
(林) 熊本大学がそういう講座を開設していますよね。
(内田) そうです。あそこは産学官が一体となって半導体人材の育成をしています。私たちは半導体人材でなくても普通にデジタル実装、ローコードツールを使ったらこんなことができますよというようなところを全国の情報学部、学科でやりたいと思っていて、意欲的なところは大学から直接地元の産業界にリーチしてやっていたりするのですけれども、そういう連携ニーズは全国各地にあるのです。
(太田) 岩手県立大学にはソフトウェア情報学部があって、学長が門前町構想で地域と一緒になってやっていくと言っていますが、そういう動きが広がっていくといいですよね。
(林) それに、せっかくGIGAスクール構想でICTの活用を推進しているのですからね。
(内田) 地産地消のような発想で地域企業と大学との連携のニーズは結構あって、高校でも情報Ⅰが必修になってレベルの底上げが図られているので、それを大学や社会にまでつなげていくという意味でも全国の高等教育機関での情報教育の充実が期待される時代になっています。経済産業省でも地方大学ブロックごとに地域ベースでマッチングしていこうという話をしているので、またぜひ相談させてください。
(林) われわれは業界としてそこに講師を派遣して協力する。
(安延) 卒業生の採用も。
(内田) そうですね。地域で育てた学生が地域のIT業界に裨益することが期待されます。
(安延) 幅広いテーマを取り上げていただき、時間を大幅に延長して盛り上がりました。内田課長には、お忙しいところ本当にありがとうございました。